「設計士」という資格は存在しません。一生の家を託す相手の正体
1. SNSで見かける「設計士」という言葉への違和感
最近、SNSで
「設計士さんと打ち合わせ中!」「設計士さんこだわりの造作」
といった楽しげな投稿をよく目にします。
これから家を建てる方が、夢を描きながら打ち合わせをする姿は素晴らしいものです。
しかし、私たち建築のプロから見ると、
そこには見過ごせない「大きな誤解」と「深刻なリスク」が潜んでいます。
まず、はっきりとお伝えします。
日本に「設計士」という国家資格は存在しません。
2. なぜ「無資格」でもプロのフリができてしまうのか
「資格がないのに工務店を経営したり、設計をしたりしていいの?」
と驚かれるかもしれません。
残念ながら、今の住宅業界には以下のような実態があります。
- 経営・営業に資格は不要: 工務店の代表やハウスメーカーの営業担当者は、建築士資格がなくても務まります。
- 「設計士」という自称の罠: 建築士法で守られているのは「建築士」という名称だけです。
無資格者が「私は設計士です」と名乗り、あたかもプロのような顔をしてお客様の前に立つことを、今の法律は直接禁止できていないのが現状です。 - 名義貸しの温床: 無資格者が図面を描き、名前だけ外部の建築士に借りて確認申請を出す「名義貸し」は、明確な違法行為です。
3. 「建築士」に課せられた重い責任と特権
建築士(一級・二級・木造)は、単に絵(図面)を描く人ではありません。
- 法的な独占業務: 建物の安全性を担保する「設計」と、工事が図面通りかチェックする「工事監理」は、国家資格を持つ建築士だけに許された特権です。
- 設計料の受領: 間取りを含め、図面を描いてお客様から直接「設計料」として対価をいただく行為は、建築士でなければ行えません。
- トラブル時の差: 万が一、重大な不具合が見つかった際、相手が無資格なら「プロとしての法的責任」を問うことが極めて困難になります。
4. 「無資格者」のすべてが悪ではない。大切なのはその役割
誤解のないようにお伝えしますが、
建築士の資格を持たずに住宅の仕事に携わっている方々すべてが不誠実というわけではありません。
- サポート業務としての貢献: 建築士が設計した図面のトレース(清書)や、パースの作成、模型製作といった業務であれば、資格がなくても問題ありません。
- 分業のメリット: 優れた感性を持つスタッフがパースを描き、それを国家資格を持つ建築士が法規や構造の面から厳格にチェック・監理する。このチームプレーは、より良い家づくりに繋がることもあります。
しかし、問題なのは「境界線」を越えることです。
資格がないにもかかわらず、建築士のチェックを通さずに独断で間取りを決定したり、法的根拠のない独自の工法を「プロ」としてお客様に押し付けたりすること。
そして、その責任の所在を曖昧にするために「設計士」という言葉を隠れ蓑にすること。
これが、取り返しのつかない事態を招く原因なのです。
5. あなたの家を設計できるのは誰か?(資格の範囲)
建築士にはランクがあり、扱える建物の規模が厳格に決まっています。
例:一般的な木造2階建て・35坪(約115平米)の場合
この規模を設計するには、最低でも「木造建築士」以上の資格が必要です。
さらに延べ面積が100平米を超えたり、3階建てになったりすれば、
「二級建築士」以上がいなければ法律上、設計は不可能です。
6. 「二級建築士」という壁の高さ
なぜ「設計士」と名乗って逃げる人がいるのか。
それは資格取得が非常にハードだからです。
私が持つ「二級建築士」を例に挙げると、
受験資格として数年間の実務経験などが必須であり、最終的な合格率は例年20%台。
学科だけでなく、制限時間内に巨大な図面を描き切る「製図試験」を突破しなければなりません。
この試練を乗り越え、法を遵守する宣誓をした者だけが、皆様の大切な資産を扱う資格を得るのです。
(ちなみに私は現在「一級建築士」ですが、当然「二級建築士」も保有しています。一級になったからといって二級がなくなるわけではなく、一つひとつの資格を積み重ねてきた重みがあるのです)

7. 最後に:後悔しないために「確認」すべきこと
最近、同じ栃木県で、無資格設計に端を発した極めて深刻なトラブルを耳にしました。
内容を聞く限り、およそプロの仕事とは思えない状態で完成を主張され、最終的には法的な清算手続き(事業停止)に入り、施主様が途方に暮れるという、耳を疑うような事例です。
「人柄が良いから」「センスが良さそうだから」という理由だけで、大切な家族の命を守る器を託してはいけません。
- 名刺をチェック: 「設計士」ではなく「木造建築士」または「◯級建築士」と書かれていますか?
- ライセンスの確認: 設計業務委託契約書を交わす際、建築士免許証を見せてもらってください。これは任意ではなくお客様に提示しなくてはいけない義務となります。
もう一度言います。
設計士という資格はありません。
そして、建築士の資格をお持ちでありながら「設計士」と名乗っているプロの皆様へ。
お客様が混同し、もし相手が無資格の「設計士」だった場合、お客様は大きな不利益を被る可能性があります。
私たちは膨大な時間を使って勉強し、責任を背負う覚悟で資格を取りました。
会社の方針で設計士と名乗れと言われているのか分かりませんが、
プロとして、ちゃんと「建築士です」と名乗りましょう。

自分と家族が一生暮らす家を託す相手は、法的な責任を背負える「建築士」ですか?
ぜひ、契約の前に勇気を持って確認してください。
【著者情報】

有限会社 ラウレアホーム
代表取締役 岡野孝祐
一級建築士 ・宅地建物取引士・ VOC測定士 ・第二種電気工事士
一年中半袖で快適に暮らせる「天井の無いお風呂がある家」を造っています
メディア:「となりのスゴイ家」出演
壁断熱工法・屋根断熱工法・自動給水加湿器・3つの特許を取得
趣味:サーフィン・海外旅行・登山・写真・動画編集


