命を守る仕事
今年の太平洋側は暖冬ですね。1/3に友人と福島県裏磐梯まで行ったのですが、いつもなら猪苗代インターチェンジ付近は雪が積もって銀世界。
それが市街地には全く雪がありませんでした。裏磐梯猫魔スキー場といえばミクロファインスノーと呼ばれる粒子の細かいパウダーのような雪のゲレンデで、それを期待していましたが、滑走不可のバーンや人工雪で固められた状況が少し残念でした。
今シーズンはどのスキー場も雪不足で大変なようです。
それでもやっぱり寒い冬。日中は小春日和になったとしても朝晩はかなり冷え込みます。年明け通常業務スタートから沢山のご依頼を頂戴し、昨日は
浴室のシャワーを交換したいので見に来て欲しい
の案件でお邪魔しました。ご依頼をくださったお客様は二人で暮らされてるご夫妻です。仕事はもう引退され、仲睦まじく暮らされているご様子。ご高齢です。
年末に大掃除をしている時、お風呂で足が滑り洗い場シャワーハンドルに手を掛けたら折れてしまったとの事。お怪我が無くて幸いでした。年数が経っている事もあり交換部品はもう欠品しており、シャワー自体古いので「交換しましょう」となりました。
水栓交換工事のみであればここでお打ち合わせは終わりです。ですが、建築家としてどうしてもお伝えしたくて一言
余計な事だったらごめんなさい
と前置きし、「お風呂の窓が全開に開いています。シャワー水栓の状態を確認している間、床タイルが冷たくて足が痛くなりました。シャワー交換だけでなく、ここを暖かくしませんか?」と。
この日、宇都宮の朝6時の外気温-2.0℃。丁度可燃ゴミ出しの日でした。霜も降りていて寒い・・・手袋をしないと手が悴みます。お打合せに向かう時間は朝9時。天候は晴れ。外気温は少し上がって1℃。
やっぱり寒い。車のエンジンを少し早めにかけて暖房が効くようにしておきます。
お客様の家に着き、最初に案内されたリビングはファンヒーターとエアコンを併用されポカポカでした。ですが、そこに向かうまでの廊下がとても寒かった。いくら廊下とはいえ、何でこんなに寒いんだろう?。
その疑問はお風呂場に入って解けました。北側に面した大きな引き違い窓。半分、全開に開いています。外の気温が1℃しかないのに窓が全開なのです。実はこれ、珍しい事でなく冬場に現地調査で伺った家でよくある事。
外は0℃なのにお風呂場は-3℃とか普通にあるんです。この寒さが脱衣・廊下へと繋がります。なぜそうなるのか?先ずは物理的な話。
お風呂場はユニットならまだ良いですが、造作浴室の場合壁や床がタイルが多い。その下地はモルタルやコンクリート。コンクリートやモルタルは比熱量が大きいので、一度冷やしたらなかなか温まらない。
お風呂に入る時、お湯やシャワーで一瞬暖まりますが窓を開けられ外気に晒される時間の方が圧倒的に多いので、例えば真夜中-6℃になる外気の冷たさをタイルやモルタルが蓄冷し続け、日中外の気温が上がってきてもそれに追従できず、室内の方が外より寒いという環境になるのです。次に心理的要因。
寒いのにどうしてお風呂場の窓を開けるのでしょうか?理由はコレ
濡れてるとカビが生えるから乾かしたい
なのです。他の理由で開けてる方を一人も知りません。毎年19,000人がヒートショック事故で亡くなります。その人数ですが、65歳以上をカウントしていますのでそれ以下になるともっといるという事です。
更に言いますと、家の中です。寒さで人が死ぬ。本当に怖い話です。リビングは半袖で居られる暖かさ。裸になる脱衣所・浴室が氷点下。いつヒートショック事故が起こっても不思議ではありません。
僕は建築家として、言うべき事は言おう。そう考えて仕事をしています。
タイル貼りのお風呂を暖かくするのは容易ではありません。お金も掛かる話です。それでも、ここ(お風呂)で倒れないで欲しい。長生きして欲しいから言いました。
想いが伝わりました。提案を受け入れてくれたのです。
言ってくれてありがとうね。心のどこかで気にしてお風呂に入っていたんです。
の言葉に胸が熱くなります。
コストパフォーマンス良く、お風呂場・脱衣場を暖かくする手法。先ずは窓の断熱化と脱衣場エアコンの設置です。それ以外にもやる事があるのですが、断熱化工事だけでなく大事なのはお客様の意識。
暖かくし、相対湿度が下がったお風呂場はカビません。環境が良くなれば窓を開けてない方がカビが生えない。
それを分かってもらう事。たくさんのお客様の家の脱衣場にエアコンを付けて来ました。その中にヒートショック事故に遭われた方はいません。
巨大地震で潰れない家を造るだけでなく、寒さで人が健康被害に遭わないようにするのも建築家の仕事です。命を守る仕事。責任も大きい。工事だけでなく住まい方も理解して貰えるよう伝えること。これからも培った知識と技術で地域貢献していきます。